2015年7月22日水曜日

ことばに できない

彼は、器に合わせて自在に形を変える、水のような人。
人の心の機微を上手く読み、それに相応しい対応ができる。

福岡空港で話した後、どうしても頭から消えなかったのは
5月の阪神百貨店ライブの懇親会の時の彼だった。
「今日とはずいぶん様子が違ってたなあ」と。

一度公開してすぐに非公開に戻したこの文章、再upします。

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阪神百貨店ライブ後の懇親会の席上。
にぎやかな喧騒の中で、すっと私の横にじゅん選手が座った。
何も言わずに座った。
あちこちの席を移動し、明るく楽しく話していたときとは別人だ。

決して私は陰鬱な顔をして座っていたわけではない。
シラフではあったけれど、宴会の華やかな雰囲気に酔って
ほわーっと楽しく座っていた。本当に楽しかった。
それでも、じゅん選手の顔から笑みは消えていた。

娘が亡くなってから、彼に会うのは今回が初めてだった。
彼は、娘が亡くなったことを知っている。
「私が死んだら代わりに送ってくれ」と託されてた手紙の一つが
じゅん選手宛。握りつぶすことができず、送ってしまったからだ。

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一言目を切り出しかねた。
「お疲れ様でした」とか「大阪、どうでしたか?」とか
無難な話の端緒はいくらでもあるのに、一切浮かんでこない。

「言えんままになったらあかんから、先に言うとくわな。
ほんまに、ありがとう」(言えず仕舞になっちゃいけないから
先に言っておくね。本当にありがとう)・・・言えたのは、これだけ。

娘は熱心なファンだった。
どうしても沖縄に行ってじゅん選手に会いたい、と言っていた矢先
脳出血を起こしてしまい、手足に軽い麻痺が出た。
けれど沖縄に行きたい気持ちは変わらなかった。
だから彼は、娘の気持ちを支えた大切な人の一人だ。
リハビリのお陰で手足の自由を取り戻し
何度かファンレターを書き、似顔絵を描いて送ってた。
そうやって、二度目の脳出血で命を落とすまで
「いつか沖縄に行こう♪」と夢見て元気に暮らすことができた。

彼から返ってきたのはこの一言。
「・・・僕は、ありがとうを、言い足りて、いない」 
視線はテーブルから動かなかった。
そして、その一言を絞り出してまた押し黙った。

「あんたはええ子やな。『子』なんて言うたらあかんけど
ほんまにええ子や」

頭を撫でた。少し硬めの髪。温かいぬくもり。
この子、今、苦しいだろうな。
なんで一般的なお悔やみの言葉に逃げないんだ。
そうすれば楽だぞ。なぜ逃げない?
俯いたままの横顔を見ながら、心の中で呟いた。

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時折、いい具合にお酒を楽しんでるねーさんが
じゅん選手や私に絡んできてくれて、救われた気がした。
私の力では、あの時の雰囲気を明るくすることは無理だった。
ねーさんは、じゅん選手の首を絞めたりして遊んでる。
その時に一緒に撮った写真がこれ。
みんな楽しげに笑ってる。いい写真が残りました。
同時に2か所からカメラ向けられてるから視線が違うけど。

うわああっ!もたれられてるよ!体重掛かってるってば!
普通体型の方なら、こちらがもたれていってるような構図。
ところが、私は大型ソファーのような体型をしてるんで
これは、首と肩の間に彼がはまり込んでる状態。

宴席ではよくあること。ところがこっちは完璧なシラフだ。
普通なら多分あり得ないシチュエーションの中で
必死に平静を装って笑ってみたのがこの写真。
桜の花の香りを少し柔らかくしたような、いい匂いがした。

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そんな陽気な雰囲気の中、すっと自然に手が伸びた。
伸びた先は、なんとじゅん選手の右頬だ。
一瞬、自分の子供のように見えたのかもしれないな。
まあるくてやわらかいすべすべした頬を、掌で包んでた。

突然そんなことをされたら、誰だってリアクションに困る。
じゅん選手、『ブラックジャック』にでてくるピノコの格好をした。
こういうやつ↓ 「アッチョンブリケ」ってやつ。
私ほんとうに何やってんだ、
シラフですることか、これ。

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突然ミサンガを手首から外し、
私の前に置いた。
碧くてまあるい珠が3つついている。
「あのミサンガ画像を見た時、
碧い海が見えた気がした」
・・・そんな記事(←リンク)を
ブログ用に準備した娘への気遣いかもだ。

指でころころところがしながら、私もそこに碧い海をみていた。

ところが、その大切なミサンガ。テーブルからつまみ上げる時に
自分でポテトサラダの上に落としてしまうんだ。
それを皿から出して、「ちょっと別のとこ行ってきますね♪」
と席を離れる。・・・んで、戻ってきて第一声がこれだった。

「ねー♪きれいに拭いといてくれたあ? (^-^)」

甘えたさんなんで」(←リンク)と自分で言うだけのことはある。
にーさん、やるなあ。こりゃかわいいわ・・・
でもふと思う。わざと甘えたんじゃないかな、とも。

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夜行バスの時間があるので途中で店を出たとき、
ゴールデンアワーリスナーの面倒見のいい笑樂さんと一緒に
じゅん選手が店の外まで出てきてくれた。
外は雨。小糠雨だった。「送ります」と声がした。濡れるのに。

また何も気の利いたことが頭に浮かばない。
じゅん選手も笑いを狙わない
ただぽつりぽつりと言葉を押し出すだけ。

自分はこれからも人を笑わせていきたい。
それが僕の仕事だから。
そしてひいては、娘さんの気持ちに応えることにもなる。
笑っている人を見るのが好きなんです、僕は。

私は最後まで気の利いたことを言えなかった。
「これからの沖縄で、あなたが活躍できる場はたくさんあります」
そして、言葉にならない感情を、深々と下げた頭に込めた。

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You should have seen him before you passed away.
なんで会わへんうちに逝ったんや。アホちゃうか。
(どうして会う前に逝っちゃったんだよ。バカじゃねーの) 

いいにーさんだったのに。・・・会えたらよかったな、おまえ。

それから。
笑ってる人を見るのが好きだという人に、
最後くらい笑ってあげられなかったのが心残りでならない。